“良好”印パ、潜む火種 アフガン抱き込み攻防

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070813-00000923-san-int

 「インドとパキスタンの関係は歴史的にみても、いまが最もよい時期なのではないか。カシミール問題を沈静化させたのはムシャラフ大統領の実績だ」

 首都イスラマバードの外交筋は意外な見方を示した。

 印パ間の最大の懸案、カシミール問題は印パが分離独立した1947年、ジャム・カシミールの住民の過半数イスラム教徒だったにもかかわらず、ヒンズー教徒だった藩王がインドへの併合を選択、パキスタンがこれを認めなかったことに端を発する。

 この問題が過去3回にわたる印パ戦争や、99年にパキスタン側がジャム・カシミールに侵入し大規模な軍事衝突に発展した「カルギル紛争」の発火点となった。

 80年代に駐インド武官を務めたパキスタン軍のザヒルウル・イスラム・アッバシ元少将は、「カルギル紛争は(大統領就任前の)ムシャラフ氏が中心となって起こしたが、その後は態度を変えて対話路線に転じた。紛争を起こした張本人が大統領になったからインドも信頼しているのではないか」と外交筋の見方を支持する。

 印パ関係の大きな転機になったのは2004年にイスラマバードで開かれた南アジア地域協力連合(SAARC)でのインドのバジパイ首相(当時)とムシャラフ大統領の会談だ。双方はここでカシミール問題を含む包括対話の再開を発表、以後、両国関係は改善に向かった。

 パキスタンが1998年に核実験を成功させ、イスラム諸国で唯一の核保有国になった事実も大きい。パキスタン軍統合情報部(ISI)のアサド・ドゥラニ元長官は「核は心理的な要素。双方が持ってしまえば使おうとは思わない。核の均衡が保たれているのだ」と話す。

 印パの関係改善が進む中で、パキスタンをいらだたせる新たな動きも出ている。パキスタンがインドに対する安全保障上の「戦略的深み」として位置付けているアフガニスタンへのインドの浸透ぶりだ。

 インドはアフガンの新議事堂の建設を申し出たほか、総額7億5000万ドルを投じて司法や教育、通信、農業など多岐に及ぶ復興支援を行う方針を打ち出すなど、上位6支援国のひとつにのし上がった。

 アッバシ元少将は「インドの進出により、アフガンは近い将来、パキスタンと親密な協力関係を築くことはないだろう」と分析。イスラマバードシンクタンク政治学研究所」のハミド・ラハマン所長も「インドはアフガンで存在感を示し、それをパキスタンの牽制(けんせい)として使おうとしている。これはパキスタンにとって大きな挑戦になる」とみる。

 これまでパキスタンが後背地として位置付けてきたアフガンが“インド寄り”になることは、「パキスタンの地域戦略の見直しを迫るものだ」とある専門家は指摘する。

 新たな地政学の変化に対し、パキスタンはどのような戦略を描くのか。9日、カブールで開幕したテロ対策を協議する「合同平和会議(ジルガ)」にムシャラフ大統領の代理で出席したアジズ首相は、「パキスタンには(かつてイスラム原理主義勢力タリバンを使って自国の政治的影響下に置いたように)アフガンを操る野心はない」と明言した。しかし、それを額面どおりに受け止める見方は少ない

 在イスラマバードの情報関係筋は「アフガンがインドと直接火花を散らす情報戦の主戦場になってきた」と解説。パキスタンはアフガンでの情報機関員を増員し、有力軍閥らとの関係構築を進めていることを指摘する。

 ムシャラフ大統領の明確な地域戦略はまだ見えてこないが、ひとたびインドとの関係が悪化すれば、再びアフガンを巻き込んで地域情勢が不安定化する可能性は高い。大統領にとって地域の不安定化をあおるイスラム過激派を押さえ込み東西両国との信頼醸成をどう構築するか、内包する危機への対処能力が問われているといえる。
イスラマバード 佐藤貴生)

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http://d.hatena.ne.jp/navi-area26-10/20070814/1187049681
でアフガンとパキスタンについては書きましたが、インドまでかかわってくるとは…
複雑ですね。