覇権漂流:第1部・きしむテロ戦線/1(その1) エチオピア 北朝鮮が武器輸出


エチオピアの首都アディスアベバの西約135キロにある兵器工場の検問所。厳重な警戒が続く中、茂みの陰から撮影した=白戸圭一撮影

 ◇米国、矛盾の黙認−−「対アルカイダ」優先

 エチオピアの首都アディスアベバの西約135キロ。丘陵に広がる農村地帯を車で行くと、エチオピア軍の検問所が姿を現した。約2・4キロ先にあるのは兵器工場「ホルマット・エンジニアリング工場」。非番の女性兵士によると、工場ではエチオピア人と北朝鮮人の技術者・労働者計約200人が住み込みで働く。付近の住民は「一般人は検問所の先に行けないが、アジア人が頻繁に出入りしている」と証言した。

 工場はメンギスツ社会主義政権(1974〜91年)時代に北朝鮮の支援を得て建設された。同政権崩壊後、いったんは日用品製造工場への転用が決まったが、エチオピアから独立したエリトリアとの領土紛争(98〜00年)を受け、兵器工場としての再建が決まった。北朝鮮が再建と軍事物資提供を請け負った。

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 エチオピア内陸国で陸揚げ港がない。このため、北朝鮮の軍事物資は、エチオピアに隣接し、ソマリアから独立を宣言しているソマリランド自治区の3港で、「07年1〜7月に計4回、陸揚げされた」と自治政府当局者らは明かした。

 陸揚げ港の一つ、ソマリランド・サイラック地区。作業は夜間、外出禁止令が出される中で進められた。周辺にはエチオピア兵や私服の諜報(ちょうほう)員が警戒、監視にあたった。

 「液体貯蔵タンクのようなものがあった。作業後、卵のようなにおいが漂い、2週間も風邪に似た症状を訴える住民が出た」と周辺住民が証言する。ソマリランド最大の都市ベルベラ近郊のボラクサール、カリンでも陸揚げされ、国境を越え、エチオピアの兵器工場まで鉄道などで運んだ。

 エチオピア北朝鮮から武器を輸入しているとの情報を外交ルートなどを通じて入手した米英両国は、「化学兵器も含まれている」(エスティファノス駐日エリトリア大使)との情報も乱れ飛ぶ中、確認を急いだ。

 結局、英国対外情報部(MI6)は、北朝鮮からエチオピアに運び込まれた物資を「化学兵器と混同されやすいリンを使用した通常兵器の原材料」の可能性が高いと判断。エチオピアの兵器工場は「黄リン発煙弾、ロケット弾、小火器などの製造施設ではないか」と見ている。

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 昨年4月13日、エチオピア政府は声明で、北朝鮮の貨物船が
▽兵器工場の機械部品
▽小型武器用の弾薬製造のための原材料
−−をエチオピア向けに輸送したと認めた。だが、米国はエチオピアに対する制裁など強い措置には動かなかった。

 米国にとってエチオピアは、東アフリカにおける対テロ戦争の要衝だ。無政府状態ソマリアが国際テロ組織アルカイダの拠点となるのを防ごうと、エチオピアを支援する。北朝鮮による武器輸出が黙認された裏には、「テロとの戦い」を最優先する米国の外交・安全保障政策がある。

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 08年は、米大統領選(11月)や北京五輪(8月)など、国際社会の勢力図を左右する重要案件が続く。イラク戦争などを経て、米国の「覇権」が揺らぎ、一国中心主義から多極化に至りつつある状況を、シリーズで報告する。今回は対テロ戦線のきしみを追う。【アディスアベバで白戸圭一】

毎日新聞 2008年3月25日 東京朝刊

北朝鮮エチオピアに武器輸出、米は黙認…米紙報道
http://d.hatena.ne.jp/navi-area26-10/20070409/1176068022
でも言われてましたね。海のないエチオピアにどうやって輸入するのか疑問に感じませんでしたが。

しかしソマリアイスラム系はアルカイダというのはもうちょっと考えた方がいいような気がします。
アルカーイダ、ケニア拠点化着々 ソマリアでは失敗
http://d.hatena.ne.jp/navi-area26-10/20070514/1179176562
と言う記事もありましたし。

しかしソマリランドが日本の新聞記事に出てくるのは珍しい気がします。