セルビアがEU加盟に向け歴史的局面、通貨ディナールは乱高下

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080620-00000674-reu-int

 6月20日、コソボ自治州の独立問題をきっかけに旧ユーゴスラビアセルビアで5月に実施された総選挙を受け、新体制発足に向けた交渉が大詰めを迎えている。写真は5月の選挙の際撮影(2008年 ロイター)

 吉池 威記者
 [東京 20日 ロイター] コソボ自治州の独立問題をきっかけに旧ユーゴスラビアセルビアで5月11日に実施された総選挙を受け、新体制発足に向けた交渉が大詰めを迎えている。過半数に迫った親欧州連合(EU)の民主党連合(大統領派)がミロシェビッチ大統領につながるセルビア社会党と組んで連立政権を樹立する可能性も伝えられる。

 1990年代はじめのボスニア紛争で大量虐殺が行われた過去を清算すると同時に欧州に歩み寄る歴史的な局面なだけに、通貨ディナールの値動きも大きい。セルビアは2009年のEU加盟候補国としての承認とその後のユーロ導入を目指しているが、実現するかどうかはボスニア紛争の戦犯引き渡しに大きく左右されそうだ。

 <ディナールの値動きは政治情勢を反映>
 「統一した方針を持たない政府は言うまでもなく機能しない。これで政府は終わりだ」。――今年3月、コシュトニツァ首相(当時)は記者会見でこう述べた。EUとの関係を重視して2月17日のコソボ独立宣言に反対しなかったタディッチ大統領の民主党連合を批判、その後辞職した。5月に実施された総選挙では、親EUの民主党連合が、第一党になるとみられていた極右勢力のセルビア急進党を制した。民主党連合の議席過半数にはわずかに足りず、民族主義者として知られるミロシェビッチ元大統領が率いていたセルビア社会党との連立政権が有力視される。

 セルビアディナールの値動きは、こうした政治情勢を如実に反映している。2月17日のコソボ独立宣言まで売られ、1ユーロ=85ディナール付近に下落した。総選挙での民主党連合勝利は、セルビア急進党との連立が避けられないとしてディナール売りにつながった。セルビア外交筋によると、新体制は今月までに発足させなければならず、政党間の交渉は文字通り大詰めを迎えている。

 これまでディナールが買われてきたのは、産業基盤の建て直しが好感されたためだ。2007年11月には76.4ディナールまで上昇していた。ただ、セルビア経済は成長を遂げる一方で、インフレが高進、2008年末のコアインフレ率が目標の3―6%を上回る兆しが出ている。このため、セルビア国立銀行(中銀)は5月29日、政策金利の2週間物レポレートを50ベーシスポイント(bp)引き上げ、15.75%にすることを決めた。

 <大物戦犯の拘束がEU加盟の決め手>
 旧ユーゴのうち、現時点ではクロアチアが正式加盟に向け交渉中のほか、ボスニア・ヘルツェゴビナもEU加盟に動き始めた。外交筋によると、セルビアは2009年のEU加盟候補国となり、その後2―3年以内の正式加盟を目指す。また、将来的にはユーロ導入も視野に入れている。しかし、セルビアのEU加盟交渉の条件として、ボスニア紛争の大物戦犯の拘束が求められている。特に、当時のセルビア人勢力政治指導者カラジッチ、軍最高司令官ムラジッチの両被告は逃亡中で、セルビア国内にはムラジッチ被告を英雄視する勢力もある。このため、身柄の拘束は高度な政治判断に委ねられる。

 セルビア治安当局は最近になって、旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(オランダ・ハーグ)で起訴されていた当時のセルビア人勢力軍幹部ストヤン・ズプルヤニン被告を拘束した。ズプルヤニン被告は同法廷に起訴され逃走していた大物戦犯の1人。セルビア検察当局のスポークスマンは、戦争犯罪検察官がズプルヤニン被告の身柄を11日に拘束した後、脅迫電話などを受けたことを明らかにした。同スポークスマンは「非常にドラマチックで辛らつな脅しだ」と述べている。

 日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部アドバイザーの豊田昇氏は「EUにとっては、ボスニア紛争で莫大なコストがかかったほか、人やモノの流れが寸断されたデメリットを考えれば、世界の火薬庫といわれるバルカン半島諸国を加盟させた方が利益が大きい」としながらも、戦犯引き渡しが加盟スケジュールを左右するとの見方を示す。EUは磐石な体制を維持するため、新たに加盟する国々に対して加盟のハードルを高くしていることが背景にありそうだ。

 <ロシアとの関係強化>
 4月には伊フィアットセルビアの自動車メーカーとの共同開発で、2タイプの新型車を生産すると発表した。JETROによると、セルビアはロシアとの間で、自動車の関税率を現行の25%から1%に引き下げる交渉を進めており、「フィアットは2国間の交渉をにらんだ動き」(JETROの豊田昇氏)という。ロシアはコソボ問題でセルビアを擁護、逆にセルビアはロシアの資源外交を支える役割を果たしている。

 ロシアとセルビアは1月、南欧に向けたロシアの新たなパイプラインにセルビアを参加させるエネルギー協定に調印した。これにより、ロシアのガス独占企業であるガスプロムセルビアの独占石油会社NIS株の51%を取得し、支配下に収めることになる。セルビアはEUに接近しながらロシアとの関係を強化することで、国際的にも存在感を増しつつある。
 (ロイター日本語ニュース 吉池 威記者 編集 橋本 浩)

カラジッチ、ムラジッチという名前は、セルビア・モンテネグロからモンテネグロが独立して以来全く新聞にも出てこなかった気がします。EUセルビアEU加盟というニンジンをぶら下げてコソボ独立を認めさせようとしてると言う話だったので、すっかり忘れてました。