終わらぬ戦い「骨の髄までテロリスト」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090320-00000556-san-int

 「おれたちは骨の髄までテロリストだ」。ブッシュ政権からオバマ政権と、米政府の大きな課題になっているキューバグアンタナモ米海軍基地に収容されている国際テロ組織、アルカーイダの幹部らが特別軍事法廷に提出した陳述書面の内容が公開され、波紋を広げた。

 書面を出したのは、2001年の米中枢同時テロに関与したとして拘束され、訴追されたアルカーイダ幹部のハリド・シェイク・モハメドとラムジ・ビナルシブの両被告ら5人。米国防総省が10日に公開した。米国からみれば、被告らの罪を裏付ける格好になったといえるものの、悩みは増えるかもしれない。収容施設閉鎖後に、これだけの大物テロリストをどう扱うかが課題になるからだ

 収容所はブッシュ前政権時代から長期拘束や過酷な尋問が問題になり、国際社会から批判を浴びる場面が多かった。ブッシュ前政権との違いを模索するオバマ大統領は1月20日の就任後、すぐに収容所を1年以内に閉鎖する大統領令に署名している。被告らが世界のテロの温床といわれる地域に潜伏するアルカーイダのシンパらに与える影響はなお大きいとみられ、次の対応が重要になる。

 被告らは書面で、アフガニスタンイラクでの米軍の活動をイスラム教徒らの殺戮(さつりく)し、米国こそ「世界一のテロ国家」だと非難。米国が第二次大戦末期に日本の広島と長崎に原爆を投下したことにも触れ、米中枢同時テロを「価値観も倫理観もない」米国への「神へのささげ物」と称して正当化した。

 テロ共謀罪での訴追には、「笑ってしまう」「攻撃計画を事前に教えると思っていたのか」と言ってのけ、計画を察知できなかった自らを処罰すべきだと米国を挑発。「本当のテロリストは誰だ」「われわれの国家、宗教、土地を守るためにおまえたちと戦う」と、今後も米国への攻撃を続ける決意を表明した。

 被告らの中でもモハメドとビナルシブの両被告は米中枢同時テロの重要容疑者として拘束された。モハメド被告はアルカーイダを率いるウサマ・ビンラーディン容疑者の側近で、テロを検証した独立調査委員会の報告書で「主要な立案者」と位置づけられたパキスタン東部バルチスタン地方に生まれ、米国の大学に学んだ後、アフガニスタン旧ソ連軍を相手にゲリラ戦に加わったといわれる。

 米連邦捜査局FBI)が米中枢同時テロの主犯格としてモハメド被告を指名手配し、ブッシュ前米政権がイラク戦争に踏み切る3週間前の2003年3月1日にパキスタン国内の潜伏先で拘束された。モハメド被告は1995年1月、アジアから米国に向かう旅客機11機を太平洋上で同時爆破するという「ボジンカ計画」と関連があったといわれる。米中枢同時テロにつながる計画だ。

 1994年に南大東島上空付近を飛行中のフィリピン航空機内で爆発が起き、日本人男性1人が志望した事件はこの計画の予行演習だったといわれる。その後、フィリピンのマニアにあった実行犯らのアジトで起きた不審な有毒ガス事件の捜査で計画の資料が押収された。モハメド被告は一連の事件の実行役として現在、米国で終身刑となったラムジ・ユセフ服役囚の親戚(しんせき)といわれる。モハメド被告は一連のテロ計画で資金や実行犯を集めていたとされる。

 一方、ビナルシブ被告は米中枢同時テロから1年の2002年9月11日、パキスタン南部カラチの隠れ家に潜伏していたところ、米捜査当局と激しい銃撃戦の末に拘束されたテロリストの1人だ。米情報当局がテレビ会見でのビナルシブ被告の声紋を基に電話交信を追跡して居所を突き止めたとも伝えられた

 ビナルシブ被告は他のメンバーとともにカタールの衛星テレビ局、アルジャジーラとの会見で、「米中枢同時テロは当初、原子力発電所を標的にする計画だった」とテロ計画の内幕と受け取れる発言をしていた。いくら拘束しても次々と現れる「アルカーイダのナンバー3」という“肩書”で拘束当時は何度も報道されたテロリストだが、米当局はモハメド被告とともになんとしても拘束したかった重要人物の一人とみられる。

 両被告のこの先は特別軍事法廷の審理に負うが、その存在と足跡はいまだ分からぬ新たなテロリストの見本ともなりかねない。その発言を書面とはいえ、公にすることは果たして得策か。「テロとの戦い」は言葉以上に厳しい。(蔭山実)

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難しい問題です。国家のわくを超えた国際テロを国が裁くことに無理があるんでしょうか。