原田武夫:軍産複合体を敵に回したオバマ大統領に明日はあるのか?

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090408-00000111-scn-bus_all

IISIAが読み解くマーケットと国内外情勢

 昨日(7日・イラク時間)、オバマ米大統領イラク・バクダッドを「電撃訪問」した。バクダッド、そしてアフガニスタンを“電撃”訪問する米欧の要人がここ数年後を絶たないため、この訪問がどれほどセンセーショナルなものであるのかについて、日本のマスメディアは余り熱心に報じていないきらいがある。しかし、オバマ大統領が現在、米国内において置かれている状況を踏まえた時、この「電撃訪問」がいかに戦略的に練られた上に実施されたものであるのかが分かる

 その前日(6日・米東部時間)、オバマ政権の中枢を担う一人であるゲーツ国防長官が2010年度(2009年10月から始まる1年間が対象)の国防予算について記者会見を実施した。その場でゲーツ国防長官は、米軍のための開発計画についてブッシュ前政権下では考えられなかったほど大規模のリストラ策を公表。世界中に大きな波紋を呼んでいる

 カートライト米統合参謀本部副議長も同席したこの記者会見におけるこの突然の発表は、オバマ大統領が昨年(2008年)11月の大統領選時に選挙公約としていた「イラクからの撤退、アフガニスタンへの増派」というアウトラインに沿うものである。名門ジョージ・ワシントン大学でロシア史を専攻したゲーツ国防長官は、知的レヴェルの点でオバマ大統領と抜群の相性だという評判がある。ホワイトハウス内におけるそうした人間関係を存分に活かす形で、ゲーツ国防長官は対アフガニスタンパキスタン新戦略の策定にあたっても決定的な役割を果たしてきた。ゲーツ国防長官は「戦争に“勝つ”ためにはただひたすら軍事的な手段を行使すれば良いというわけではない。むしろ重要なのは、民生分野での努力だ」と主張している。そうである以上、これまでのように大規模な軍事開発を繰り広げるのではなく、より効率的なプランへと大胆に変更すべきだというのである。

 しかし、オバマ大統領による後ろ盾を得ているとはいえ、ゲーツ国防長官によるこうした「大英断」はワシントン政界において少なからぬ反発を早くも生んでいる。なぜなら、連邦議会の議員たちにとって、国防予算の大幅な削減は彼らの地元における雇用の激減につながってくるからだ。たとえば今回のリストラ策においてターゲットの一つとされたステルス戦闘機「F‐22」の生産停止によって、合計25000人分もの雇用が削減されてしまうという。ただでさえ金融メルトダウンの中、「働き口はないのか」と選挙民たちからつつかれている議員たちにとっては絶対に受け入れられない予算案であろう。そうした状況の中、「本来、ゲーツ国防長官とは良好な関係を保ってきた連邦議会議員たちですら、その“友好関係”を破らざるを得なくなりつつある」との声さえ聞かれるようになっているのだという。

 もっとも、今回のリストラ策によって国防予算の全てが削減されたと考えるのは間違いだろう。3月上旬に明らかとなった中国・海南島近辺の公海上における米海軍調査船に対する中国海軍によるいやがらせ(ハラスメント)騒ぎに示されるとおり、米国勢としては中国勢による海軍の拡張を大いに懸念している。そのような中、今般のリストラ策によっても海軍の装備開発計画については“温情”が示されている。その典型が、LCS(沿海戦闘艦)の開発計画であり、今回の予算案では当初の2隻建造から「3隻建造」へと元来の計画より増額されたのである。ゲーツ国防長官はこの関連で、「我々の目標は総計55隻のLCSを配備することである」とまで言い切っている。また、JHSV(高速輸送艦)についても2隻建造から「4隻建造」へと当初計画から増額された点が注目されている。

 こう考える限り、オバマ政権が第2次世界大戦後の米国政界に対して圧倒的なロビング力を誇ってきた軍産複合体と、今回の国防予算をもって完全に“縁を切った”と断言するのは早計だろう。しかし、そもそも1990年代のクリントン政権(当時)における所業からして、「民主党勢は軍事とインテリジェンスの双方で予算と人員の大幅な削減をするきらいがある」とかねてより下馬評があっただけに、軍産複合体としては今後、オバマ政権に対する警戒感をさらに露わにしてくる可能性は否定できない

 そう考えられるからこそ、オバマ大統領はイラクを「電撃訪問」し、国防予算削減を受けて憤っているはずの米軍を宥め、さらには対イラク戦で大量の武器を生産し、現地へと送り込んできた国内の軍産業複合体へとサインを送っているととらえられるのだ。しかし、米国由来のリスク資産に基づく損失額があまりにも巨大であることが明らかになりつつある中、景気回復のための予算もままならず、「まずはデフォルト(国家債務不履行)を宣言するしかない」とマーケットでは語られて久しいオバマ政権のことである。金融メルトダウンの更なる進展が避けられない以上、国防予算は引き続き削減を余儀なくされ、その結果、軍産複合体たちの憤りがワシントンへとさらに押し寄せることは間違いない

 「CHANGE(変革)」を掲げ、鳴り物入りで登場したオバマ政権。“上げは下げのためにある”というマーケットの格言ではないが、過度な期待は大いなる失望へと変わるのか。―――「潮目」が早くも見え始めている。(執筆者:原田武夫<原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA) CEO>)

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軍産複合体という言葉があったので読んでみましたが、軍事の事はよく分かりません。

LCSはWikipediaによると
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%BF%E6%B5%B7%E5%9F%9F%E6%88%A6%E9%97%98%E8%89%A6
ノースロップ・グラマン 社とジェネラル・ダイナミクス社がプロトタイプを作っているそうですが、それで軍産複合体を敵に回すことになるんでしょうか。