危うい露の原子力覇権戦略 安全性、情報公開…課題は山積

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090512-00000613-san-int

 【モスクワ=遠藤良介】日本が12日に原子力協定を締結したロシアは、原子力を石油、天然ガスに次ぐ「エネルギー帝国」の第3の柱と位置づけ、この分野でも支配的地位を狙う。だが、ロシアの原子力産業には安全性や情報公開の面で問題が多く、「信頼できるパートナー」となりえるのかにはロシアの専門家からも疑問の声があがる。今回の協定締結は資源小国・日本に核燃料供給の多角化といったメリットをもたらす半面、日本がロシアの“危うい原子力戦略”に取り込まれることをも意味する

 ロシアは2007年末、国内の原子力関連企業約85社を統合し、旧原子力庁を母体に巨大国策企業「ロスアトム」を設立した。世界的に「原子力ルネサンス」と言われるほど原発の見直し機運が高まっている中、同社に資金を集中投下し、原発分野で先行する日欧米の3極を切り崩す狙いだ。

 ロシアはブルガリアとインドで各2基、イランで1基の原発を同時に建設中で、新興国を中心とした売り込み攻勢で現在20%のシェア拡大を図る。この際、自国に欠ける「原発技術と信頼」(露外交筋)を日本企業との提携で補うのがロシア側の意図だ。また、ロシアは核燃料の原料であるウランの濃縮で世界の4割のシェアを占めてなお余力があり、外国向けの核燃料製造を請け負うことで影響力拡大をもくろむ。

 ロシアのウラン濃縮技術自体は他国と同様で、建造されている原発チェルノブイリ事故(1986年)を起こした型とは異なる

 だが、ノルウェーの環境団体「ベロナ」サンクトペテルブルク支部のニキチン氏は「ロシアではウラン濃縮にまつわる重大事故も過去に起きている。安全性は(基準や作業手順の順守など)多くが人的要因にかかっている」と指摘。日本が将来、ロシアに委託する可能性のある回収ウランの再濃縮についても「ロシアの技術は劣悪で確立されておらず、放射性廃棄物の貯蔵も問題だ」と懸念を示す

 日露原子力協定は国際原子力機関IAEA)による関係施設への保障措置(査察)を協力の前提条件としている。ただ、ロシアの核施設は全般的に軍民共用型で、軍部には査察への抵抗が強い。ロシアがどこまで査察に応じるかは不明で、透明性の確保が課題であり続ける。ロシアが関係の悪化した隣国、ウクライナへの天然ガス供給を停止したのと同様、政治的理由から核燃料供給をやめることも技術的には可能だ。

ロシアを悪く書くのは産経のお得意のような気もしますが、
日ロ原子力協定、原案固まる=交渉は最終段階
http://d.hatena.ne.jp/navi-area26-10/20090411/1239415775
の時はのんきに大丈夫そうですねーと書いてしまいましたが、不安になります。

ロスアトムの2008年のインタビューが、ありました(長文ですが)。
原子力覇権狙うロシアの戦略は? 「ロスアトム」報道官に聞く
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080713-00000925-san-int


ロシアの国策統合原子力企業「ロスアトム」のセルゲイ・ノビコフ報道官(遠藤良介撮影)

 地球温暖化と石油価格の記録的高騰を受け、発電過程で二酸化炭素(CO2)を排出しない原子力を見直す動きが世界的に進んでいる。そんな中、石油、天然ガスに続き、原子力で「エネルギー帝国」の構築を狙っているのがロシアだ。昨年12月には国内約85社の原子力関連企業を統合した国策企業「ロスアトム」が発足し、新興国を中心に猛烈な勢いで原発建設を受注している。同社のセルゲイ・ノビコフ報道官に、ロシアの原子力戦略と問題点について聞いた。(モスクワ 遠藤良介、写真も)

 −−ロシアによる原子力発電所の建設計画は

 「国内では、特別なプログラムが策定され、それによれば2015年までに10の原子炉が完成し、さらに10の原子炉が建設段階になくてはならない。このプログラムの枠内だけで、1兆5000億ルーブル(6兆8500億円)が原発建設に支出される。大統領が立てた2030年までの発展戦略では、原子力発電の比率を現在の16%から25〜30%に高めることになっている。原子力発電が約3割を占める日本の状態に近づくということだ」
 「外国では日々、新たな国が原発の建設計画を発表している。最近ではスイスがこの分野を発展させる用意を表明したし、イタリア、それにブラジルもだ。つまり、各国は日々、ゼロから原子力発電を発展させるか、それともその路線に回帰するかを表明しているわけだ。昨年の評価に基づけば、2030年までにあと300基の原子炉が建設されるということだ。現在、世界には原発を建設する会社が5つあり、単純に計算すると1社について60基となる。われわれの戦略はこの計算を考慮に入れている。つまり、われわれの現在のシェアである20%を守り、最低60基を建設するということだ」

 −−今の時点ですでに猛烈に建設している

 「今、われわれはブルガリアで2基、インドで2基、イランで1基、自国で5基を建設しており、(これだけ建設しているのは)世界で唯一だ。われわれは10基を同時に建設しているのであり、昨年12月に中国の(江蘇省)田湾原発の原子炉2基を引き渡したばかりだ。これは大変な仕事量だ」

 −−国際市場でのロシアの競争力は

 「ロシアが国際入札に勝っているということについては実例を挙げることができる。われわれはブルガリアでの国際入札で東芝ウェスティングハウスに勝ったし、チェコフィンランド原発への燃料供給でも入札に勝った。新たな合意も結ばれており、われわれには見せるべき勝利があるということだ」

 −−ロスアトムの強みはどんなところにあるのか

 「ウランの採掘から原子力発電、使用済み核燃料の処理まで、核燃料サイクルをためすすべての部分を統合していることがわれわれの競争上の長所だ。第2の長所は、国内に多くの注文(需要)を擁していることで、他にこのような国を挙げることはできない。当然ながらこれは発展への刺激となり、国家の支援があるということだ」

 −−ロシアによる核燃料の輸出先は

 「(傘下の)TVEL社が世界市場の17%のシェアを占めており、研究炉向けを含めるならば20カ国以上になる。通常、われわれが原子力発電所を建てた国であり、そこには燃料も供給している。ウクライナブルガリアハンガリー、中国、インドなどだ。つまり、われわれが発電所を建設し、その全期間について燃料の供給も保障している国である。研究用の原子炉についても、われわれが燃料の供給を保障している所がある」

 −−核燃料の製造と輸出を増やす計画はあるか

 「今でさえ燃料の生産には余力があり、増産が可能だ。われわれは発電所を建設し、自ら燃料を供給することを計画している。今、インドの企業がわれわれの計画に従って原発を建設しており、われわれは(発電所の)全操業期間にわたって燃料を供給することができる。中国についても同様で、われわれは発電所を引き渡し、この2基の原子炉についてわれわれの燃料を全操業期間にわたって供給する契約を結んだ。ロシアに現存している工場に生産余力があるのだから、今、(外国が)燃料製造のための新しい工場を立てるのは合理的でない。ウラン濃縮についても事情は同じで、われわれはこの分野で40%のシェアを有しているが、より多くのサービスを提供することが可能だ」

 −−2001年、大多数の住民が反対していたにもかかわらず、外国の使用済み核燃料の搬入を許す法改正が下院で成立した。環境専門家の間ではロシアが「核のごみ箱」になるとの懸念が大変強いようだが

 「それ以降、今に至るまで、ロシアが自国領に外国の使用済み核燃料を受け入れるとのステレオタイプがある。しかし、これは正しくない。なぜならそのような法的な基盤はあるものの、外国の使用済み核燃料は持ち込んでいないし、持ち込もうともしていないからだ。われわれがやっている唯一のことは、ロシアで生産された核燃料を使用後に回収しているということだ。不拡散体制に従って、われわれはこうした燃料を貯蔵と再処理のために回収しているのだ。過激な環境活動家たちは、ロシアが『核のごみ箱』になるというが、これはわれわれが輸出した核燃料なのだ。このことは核不拡散の要請にもかなうことだ」

 −−使用済み核燃料についてはどうする?

 原発が稼働している限り、ある時期を過ぎると使用済み核燃料が生じるのは不可避だ。われわれはその一部を再処理し、大半については長期貯蔵している。フランスでは、使用済み燃料を300年間貯蔵し、その後、子孫たちがその利用法を研究すれば、きわめて貴重な原料を手に入れられるだろうと考えている。使用済み核燃料の90%には貴重な物質が含まれている。それを取り出して利用することは将来の世代の課題だが、われわれはそのための基礎を作らねばならない。使用済み核燃料を安全に貯蔵できれば、何の問題もない」

 −−長期にわたって使用済み核燃料を貯蔵する計画はあるのか

 「長期貯蔵の施設はチェリャビンスク州とクラスノヤルスク州にある。これは数十年間の貯蔵を想定したものだ。地層貯蔵地については研究が行われている」

 −−各原子力発電所にも使用済み核燃料が貯蔵されているのではないか。その一部は容量一杯になっているとも言われているが

 「各原発にあるのは、5年間の貯蔵を前提とした冷却施設だ。冷却終了後、使用済み燃料は長期貯蔵施設に移送される。(原発の貯蔵施設に)搬入されるものもあれば、搬出されるものもある。これは生きたプロセスだ。すべての使用済み燃料が貯蔵にまわされるわけではなく、全体の5%の使用済み燃料は再処理される」

 −−旧原子力庁が2003年、使用済み核燃料に関する「コンセプト」なる文書を発表し、その中で使用済み核燃料を安全なものだと強調していたが

 「(外国の)使用済み核燃料の搬入を可能にする法が成立したのは事実だ。使用済み核燃料の貯蔵は安全だ。しかし、(その後に)原子力庁はこの問題について金銭的な面からアプローチした。つまり、使用済み核燃料の貯蔵という市場があると考えたわけだが、それについて計算するのは不可能(と判断されたの)だ。燃料の貯蔵には年間いくらかかるのかという問いに、誰が答えられようか。100年間の貯蔵契約が終わった後、101年目からどうするのか。誰が支払うのか。そこで、2年前に外国の使用済み核燃料は受け入れないとの決定がなされた。われわれはロシアの燃料についてのみ働く(引き取る)。これはわれわれの製造物であり、われわれはそこから利益を得るからだ。これ(外国の使用済み核燃料を受け入れないという決定)は法律でなく、政策だ。(2001年の)法律は(外国からの搬入を)許すが、強制するものではないのだ」

 −−ロシアには核燃料製造の重要工程であるウラン濃縮の高度な技術があるとされる。プーチン前政権は東シベリアのアンガルスクにある施設を国際原子力(国際ウラン濃縮)センターとして外国からのウラン濃縮を請け負う構想を打ち出したが

 「核燃料は基本的に市場で取引される商品だ。他方、原子力を発展させたくて資金を投じたのに、政治危機によって燃料を得られない国が存在することを世界は知っている。燃料の供給を保障し、原子力の発展を促進するために、プーチン前大統領のイニシアチブがとられたのだ。つまり、ある国が何らかの理由から市場で燃料を買うことができない場合、その国は国際センターの株主として、燃料に対する法的権利を有するのだ。われわれはアンガルスクのセンターを国際原子力機関IAEA)の保障の下に置いている。IAEAは外国に対し、その国の素材が民生目的に使われるということを保障する。このことは(核物質を移転する際の法的枠組みとなる原子力平和利用協定の交渉を進めている)日本にとっても重要なことだ。(日本との協力については、たとえば)日本に低濃縮ウランを供給するようになれば、それはIAEAの保障下にあるアンガルスクのコンビナートで製造されることになろう。日露関係にとっての障害はない」

 −−ロシアの原子力分野について、情報公開度を懸念する声も強い。頻繁に「原発事故」の情報が流れ、パニックが起きるのはなぜか

 「今は電話やショート・メール、ブログを利用したテロリズムがある。(「事故」のデマは)特別に広められており、具体的な闘争なのか、不満の表明なのか、誰かに(こうしたデマが)必要なのだろう。われわれは透明な企業でありたいと思っている。われわれには中央と地方のレベルで社会評議会というものがあり、そこで環境活動家はすべての情報を得ることができるし、疑問があれば建設現場を見ることも可能だ」

【用語解説】原子力発電のサイクル
 天然のウラン鉱石には核分裂性のウラン235は0・7%だけしか含まれておらず、これを遠心分離などの方法で0・7%以上に高めるのがウラン濃縮。軽水型発電炉は約3〜5%の濃縮ウランを使う。使用済み核燃料は「ごみ」として直接処分するほか、再処理によって燃え残ったウラン235やプルトニウムを取り出し、核燃料として再利用する。日本や英仏は再処理による核燃料サイクルで最終廃棄物を減らす立場。米国などは直接処分の方針をとる。

【関連記事】
原子力で覇権狙うロシア 「核のごみ箱」の懸念
・主役やはりプーチン 首相でも歓待変わらず
チェルノブイリ汚染 “不死鳥の街”復活の道
・日本企業の参加を期待 極東の原発建設でロ資産家
・日露が原子力分野で協力 ビジネス前進の可能性

あくまで自分たちの目的の為にビジネスライクに仕事をするということでしょうか。