「テロとの戦い(War on Terror)は誤り」英外相発言波紋

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090130-00000072-san-int

 ■“二人三脚”の米国批判、「軌道修正」要求が背景

 【ロンドン=木村正人】「“テロとの戦い対テロ戦争)”という概念は誤りだった」とするミリバンド英外相の発言が波紋を広げている。ブッシュ前米大統領の退任直前だったとはいえ、英外相が同盟国・米国の政策を公然と批判するのは異例。イラク戦争など「対テロ戦争」を米国と二人三脚で遂行してきた英国でさえ「対テロ戦争」を否定する中、ひとくくりにできないテロ組織に対し、オバマ米政権がどんな方針を打ち出すのか注目が集まっている。

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 対テロ戦争」の概念が定着したのは、2001年9月の米中枢同時テロ直後、ブッシュ氏が「これはもうテロではなく戦争行為だ」と宣言し、同盟国などに戦いの隊列に加わるよう呼びかけたのがきっかけだった。

 ミリバンド外相は今月15日付の英紙ガーディアンに「“対テロ戦争”は誤りだった」とのタイトルで寄稿し、「“対テロ戦争”の概念は、現実には多様なテロ集団が一つにまとまっている印象を与えてしまった」と厳しく批判した。外相は同じ15日に、昨年11月のインド・ムンバイ同時テロの舞台となったタージマハルホテルを訪れ、同趣旨の演説を行った。

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 英国の転機となったのは05年7月、死者56人、負傷者約800人を出したロンドン同時爆破テロだった。英政府は盗聴や尋問などテロ対策を強化する一方で、英国生まれのパキスタン系移民らがなぜ自爆テロを決行したのかを検証。「対テロ戦争」の概念が「イスラムへの抑圧」という図式を描き、逆にテロリストを増やしていると結論づけた。

 国際テロ組織アルカーイダの欧州での動向に詳しいロンドン大のピーター・ニューマン博士によると、英外務省は06年末、閣僚に「対テロ戦争」を使わないよう要請。ブレア前首相と異なりブッシュ氏と距離を置いたブラウン首相は07年6月、「対テロ戦争」の使用を完全に禁じ、首相自ら米国の「対テロ戦争」と一線を画した

 その後、「対テロ戦争」に突き進むブッシュ前政権に、英政府は「テロ対策は多様であるべきだ」と軌道修正を求めてきたが、米国の方針は変わらなかった

 ミリバンド外相の批判がブッシュ氏の退任5日前に行われたことについて、ニューマン博士は「直前でなければ発言できなかったからだ」と、ブッシュ氏への最後の配慮だったと指摘する。

 イスラム原理主義勢力タリバンが勢いを増すアフガニスタンに対し、米国と歩調を合わせて増派する構えのブラウン政権は外相発言を通じ、軍事作戦だけでなく、過激派の分断、穏健派との対話など、多角的なアプローチの実施をオバマ政権に改めて求めたともみられている。

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 英国ではミリバンド外相の寄稿と演説内容を支持する声が多いが、ムンバイ同時テロ後、国民の間で「対テロ戦争」の必要性が強く叫ばれているインドにおいては、不評だ。

 英紙フィナンシャル・タイムズも社説で、「外相演説は正しいが、印パ両国は過去10年で2度も戦争寸前までいっており、(演説の波紋は)コップの中の嵐で済まない」と批判。英紙タイムズも「時期も場所も適切でなかった」と厳しい。

 今後のテロ対策のあり方について、英対外情報部(MI6)元副長官のナイジェル・インクスター氏は「まず“対テロ戦争”という画一的な概念を壊すことだ」と強調する。英保守系政治誌のマシュー・ダンコーナー編集長は「この戦争でイスラム過激派は共通の戦略をもてたが、私たちの方は共有できなかった。それが問題なのだ」と英紙でコメントしている。

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 ■英外相寄稿要旨

 2001年9月11日の米中枢同時テロから7年余がたった現在、過激主義とその恐るべき拡大、テロリストの暴力を防ぐための取り組みを根本的に見直す必要があるのは明白だ。

 「テロとの戦い対テロ戦争)」という概念はテロを取り巻く環境を形作った。この語句にはいくつかの効用があった。脅威の深刻さ、団結と迅速な対応、時には武力も行使する必要性を世界にわからせたことだ。しかし、結局は誤った概念で誤解を招いている。

 この概念は、統一された多国籍の敵がいる印象を与えてしまった。現実にはテロリストの動機や正体はばらばらだ。それをひとくくりにし穏健か過激主義か、善か悪かの戦いという構図を描けば描くほど、共通項の少ないテロリストを統合しようとする集団の術中にはまる。「イスラムへの抑圧」を主張するウサマ・ビンラーディンと国際テロ組織アルカーイダの思惑通りである。

 必要なのは、テロリストの武器と資金源を根絶し、主張の浅はかさを露見させ、支援者を民主政治に向かわせることだ。

 「対テロ戦争」という言葉には、まず軍事がテロへの正しい対応であるという含意があった。だが、民主的な社会を支える法の支配を二の次にするのではなく、擁護することでテロに対抗しなければならない。

 「対テロ戦争」のよびかけは、唯一の敵に対する戦いへの結束を築く試みだった。しかし国民と国家の結束の礎は、誰が敵かではなく、私たちの価値観によって築かれるべきである。

 テロリストが成功を収めるのは、分断と憎悪の種をまき、暴力と抑圧で対抗するように国家を追い込んだときなのだ。

対テロ戦争は誤り=「誤解招いた」と英外相
http://d.hatena.ne.jp/navi-area26-10/20090116/1232119953
で、すでに取り上げたネタですが、1/15の寄稿を今になって記事にするのもブッシュ前大統領に対する配慮でしょうか。

テロに対する戦略については
なぜアフガニスタン
http://d.hatena.ne.jp/navi-area26-10/20090128/1233138755
の続きも和訳中なので終了をお待ちください。

追記:
和訳最後まで終わりました。
教えてなぜ私達はそこにいるの?アフガニスタン(とパキスタン)に利益を見出そうと努力する事。
http://d.hatena.ne.jp/navi-area26-10/20090204/1233752026