なぜ週刊誌は訴えられるようになったのか?
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090522-00000024-zdn_mkt-bus_all
大衆向けの情報誌として、1922年に創刊された『週刊朝日』。その後、1カ月遅れで『サンデー毎日』が創刊され、新聞社系の雑誌は日本を代表する老舗週刊誌となった。1950年代には150万部に達したが、その後、出版社系の週刊誌が台頭してきた影響で、ジリジリと部数が減少。ここ数年の実売部数の推移を見てみると、2000年が32万部、2005年が22万部、そして2008年には17万部と低迷している。
逆風が吹き荒れる週刊誌業界の中で、『週刊朝日』の山口一臣編集長は現状をどのように見ているのだろうか? 5月15日に開かれた“週刊誌サミット”での声を紹介する。
●すぐに訴訟。“言い訳”を聞こうとしない
元木昌彦(司会):『週刊朝日』は『サンデー毎日』や『読売ウイークリー』などと同じように、本体は新聞社。その中で取材活動を続けている。『週刊新潮』が昭和31年(1956年)に創刊したときに『週刊朝日』と『サンデー毎日』はそれぞれ150万部売れていた。しかしその後、出版社系の週刊誌が相次いで創刊され、新聞社系は部数を落としていった。
山口編集長の編集方針もあるだろうが、最近では司法や検察を検証した記事が印象に残っている。朝日新聞という新聞社の中で、山口編集長はどういった方針で雑誌を発行しているのだろうか?
山口一臣:さきほど田原さんから「編集長は度胸がなくなった」と、お叱りの言葉をいただいた。すいません……正直言って「度胸はないです。萎縮しています」。(萎縮している理由は)さきほどから何人もの方が指摘されているように、私たちは今、2つの大きな脅威にさらされている。
1つは田島先生が指摘されたように、さまざまな規制と訴訟というものがあるから。もう1つは……これは半分以上、私の責任だが、雑誌を買ってもらえない。つまりお金がないということ。私たちは、この2つの大きな脅威にさらされている。
訴訟について、さきほど田原さんや佐野さんからも「勝てばいいんだ」「負ける方が悪いんだ」とおっしゃられていた。自慢ではないが、(私は)いくつか訴訟を抱えていて、しかも編集長に就任してから急に訴訟が増えた。しかし、まだ「負け」は1つもない。判決をいただいたものについては、すべて勝った。また勝訴的和解も2つあった。
『週刊朝日』のスタッフには「訴えられるかもしれない」ということを前提に、「取材をしてください」とお願いしている。週刊誌の仕事を25年くらいしているが、随分世の中が変わったなあと感じている。さきほど申し上げた通り、規制が増えてきたこともあるが、人間関係のあり方が様変わりしている。どういうことかというと、私が駆け出しのころは記事を書いて文句があれば、だいたい電話で怒鳴り込んできた。あるいは会社に押し込んできたり、呼びつけられたりもした。
私はまだペーペーの記者だったので、デスクの後ろで小さくなって話を聞いていた。そして文句を言って来た会社の人や政治家のところに行って、直談判してきた。喧嘩(けんか)して仲良くなるというわけではないが、そこで新たな関係を築いたり、お互いなんとなくウヤムヤにしたり、話し合いをしたり、貸し1・借り1といった感じで収まっていた。しかし最近では、そういうことはほとんどない。書かれた側が文句を言ってくるケースは、ほとんどなくなった。
例えば内容証明といった警告文を送ってくるのは、まだましなほう。なぜなら内容証明の内容によって、話し合う余地があるからだ。しかし最近は、いきなり訴訟を起こされる。話し合う以前の段階で、いきなり訴えてくるケースが非常に多くなっている。つまり我々はどういうつもりで記事を書いて、どういう取材をしたかという、“言い訳”を聞こうとしない。すぐに訴えてくるのだ。コミュニケーションのありようが、私の駆け出しのころと比べ、大きく変わったという印象がある。
●訴える目的は名誉? ウソだ
もう1つは訴えられるときは、「名誉棄損損害賠償請求」という形になる。しかし明らかに名誉の回復を目的としていないのだ。例えば朝青龍側※が勝訴したとき、彼はいみじくもこう言った。「カネの問題ではない。名誉の問題なんだ」。でも、これはウソだ。じゃあ、何のために(出版社を)訴えてくるのか。答えは(我々を)黙らせるためなのだ。
※『週刊現代』が朝青龍と30人の力士から提訴されていた一連の八百長疑惑記事で、総額4290万円支払えという超高額賠償金が言い渡された。
また賠償金額が高額化している理由は、(出版社を)黙らせるため。昔はこういう手段があった。記事に対して文句を言って来る人がいれば「じゃあ、反論を書きませんか」「反論インタビューをしませんか」と提案してきた。つまり記事によって名誉を棄損していたとすれば、反論することで名誉を回復することもできた。ところが今は、そういう申し入れに対し、乗ってくる人はほとんどいない。
いきなり訴えてきて、しかも高額の賠償金。それは「書くな」または「黙れ」という意味にしか考えられない。
最近タチが悪いこととして、名誉棄損訴訟をビジネスにしている人たちが増えてきたことだ。司法改革によって、弁護士の数が非常に増えつつあり、仕事がない弁護士がたくさんいる。そういった弁護士が「この記事、訴えたらどうだ?」「500万円は取れるぞ!」などと、書かれた側に営業をかけ、メディアを訴えようとしている。
要するに「訴えられ損」なのだ。訴えられると、裁判のためにものすごいエネルギーが必要になる。弁護士を頼まなくてはいけないし、経済的な損失もある。先ほど私は「(裁判で)負けていない」と言ったが、こちらが勝っても、向こうからカネをくれないのだ。向こうは名誉棄損を請求しているだけで、その請求が棄却されるだけ。
でも考えてみてください。まずは向こうが「お前の記事で名誉棄損されたぞ」と訴えてきた。これに対し、裁判で我々が勝った。(この構図は)いわば“いいがかり”じゃないですか。いいがかりをつけてきているくせに、そいつらは自分たちの弁護士代は払わなければならないが、それでおしまい。で、もし勝ったらカネが取れる。こんな不公平なことはない。
●政治家であれば反論できる
さきほど『週刊現代』の加藤さんが言っていましたが、こちらは取材源を秘匿しなければならないというハンディがある。こちらに立証を求められても、非常に難しいというか、不利な立場にある。訴えている側はカネを取ろうとしているわけだから、彼らが立証するのが常識だと思う。
さらに高額訴訟について言うと、懲罰的な意味も含んでいる。もし懲罰的な訴訟ということであれば、やはり訴える側が立証する責任があると思う。また有名人であればあるほど高額の請求をしてきて、結果、高い金額を支払わなければならないケースが増えている。だけど考えてみてほしい、政治家であればいくらでも反論できるのだ。
安倍晋三さんが総理大臣のときに、安倍さんの秘書から訴えられた※。安倍さんは記事が掲載された直後から、あらゆる所で記者会見を開き「『週刊朝日』にデタラメを書かれた」「捏造記事だ」「インチキだ」とさんざん言ってきた。当時は総理大臣の発言なので、そのたびに多くの新聞が取り上げた。
例えば夕刊フジには「朝日提訴」という見出しが出ている。よく読んでみると「『週刊朝日』の記事はウソだ。デタラメだ。捏造だ」などと書いてあった。これで(反論は)十分ではないだろうか。結局、我々はこの件について「和解金を支払わない」という形で決着した。
※『週刊朝日』は、「長崎市長射殺事件と安倍首相秘書との『接点』」とする見出しの新聞広告を掲載。安倍晋三首相の元秘書飯塚洋氏らは名誉を傷つけられたとして、発行元の『朝日新聞』や『週刊朝日』の山口編集長などに計4300万円の損害賠償と、謝罪広告の掲載を求める訴訟を東京地裁に起こした。
●今の時代は“情報デフレ”
もう1つ……これは情けないのだが、訴訟で何百万円、何千万円支払うとなると、本当に厳しい。若い人たちが週刊誌を買わない理由は「内容がつまらないから」だと思う。読む気がしないのかもしれない。週刊誌が面白くないのは私たちの責任だが、信頼性があって面白い情報にはお金を出して買ってほしい。
実は以前、学生からこのように言われた。「新聞社のWebサイトはユーザーにフレンドリーじゃない」と。どういう意味かと聞いたところ「どんどん記事が削除されていき、過去記事を検索できない。有料サイトだと読める。やはりタダでないとダメ」と言っていた。
週刊誌や新聞の記事もそうだが、その記事を書くために人件費や取材経費などのコストがかかっている。このことを分かってほしい、と言ったところ「いやあ、どのWebサイトを見ても情報はタダだけど、新聞社だけはフレンドリーじゃない」という。では君はどこに就職が決まったのか、と尋ねると「NHK」だと答えた(笑)。NHKは強制的に受信料を集められるので……(笑)。
メディアが出している情報は、基本的に(情報を集めるために)お金がかかっている。なので、できればお金を払って読んでいただきたい。今の時代は“情報インフレ”がはなはだしい。『週刊朝日』でも大手のポータルサイトに情報提供しているが、いくらくらいかご存じでしょうか? ワンクリック0.025円しかないのだ。
泣き言といえば泣き言かもしれないが、1つはメディア規制と訴訟、もう1つは情報デフレ、この2つの脅威にさらされる中で、日々暮らしている。
この弁護士の数が非常に増えつつありのくだりは
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「司法問題に関してアメリカが日本に対して要求していることは、大きく分けてふたつある。ひとつは弁護士業の自由化である。ひとことで、言えば外国人弁護士が日本で自由に商売できるように規制を撤廃しろ、と言うことだ。」p140
「アメリカが弁護士事務所の対日進出に熱心なのは、単に弁護士が業界が日本で金儲けしたいということだけではない。アメリカ通商代表部の『外国貿易障壁報告書』の日本に関する部分には、弁護士や会計士などアメリカの知的専門業サービスの対日進出は、アメリカの他のサービス産業や製造業の対日進出の橋頭堡としても重要だという趣旨のことが記されている」p141
とか書いてありました。
ここに→ http://www.kanshin.com/keyword/714391 自分の書いた抜粋があります。
同じ人がその後に書いた
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ここに→ http://www.kanshin.com/keyword/966369 自分の書いた抜粋がありますが、
こっちのほうが→ http://www.news.janjan.jp/culture/0512/0512246834/1.php 最後まで書いてあります。
しかし、ワンクリック0.025円ですか。こんなことしてると僕もそのうち怒られるかも…