イングーシ「チェチェン化」の影 衝突続く“カフカスの火薬庫” 

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081030-00000052-san-int

 ロシア南部イングーシ共和国の人々は、旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身の独裁的な指導者の下、息を潜めるように暮らしていた。武装勢力や反体制派住民と治安部隊の衝突で2002年以降、数百人の死者・行方不明者が出たとの推計もある。大量の血が流れた隣国チェチェン共和国の悲劇の再来を懸念する声も出るなか、イングーシを訪れ、「カフカスの火薬庫」の現状を探った。(イングーシ共和国マガス 佐藤貴生)

 首都マガス近くの商業地ナズラニ。主要道路にはバリケードや検問所が置かれ、装甲車両の脇で自動小銃を携えた兵士が警戒に当たる。傍らでは女性たちが買い物をし、子供たちは談笑しながら帰宅する。

 街の様子は午後7時を過ぎると一変し、人の姿が消えた。街灯もまばらな通りは不気味なほど静まり返った。

 市場などの取材現場にはイングーシ大統領府職員が常に同行し、住民に政権批判を口にしないよう無言の圧力を加えていた。マガス郊外の野外市場で出会った男性(38)は当局の目を逃れたすきに、「夜になると住民が自宅から連行されていく。ジャジコフが(共和国の)大統領になって以来、治安は悪くなるばかりだ」と小声で訴えた。

 ◆強権統治が招く報復

 イングーシでは02年、元KGB中将のムラト・ジャジコフ氏(51)が大統領に就任して以降、治安部隊など当局の関与が疑われる殺人・拉致事件が続発。正確な数は不明だが、現地の人権団体マシルは同政権成立以後、約500人が死亡、約160人が行方不明になったとし、詳細情報をインターネットサイト(http://www.mashr.org/)で公表している。

 「殺人やテロを企てた容疑で当局に連行された末、裁判もなしに兄弟や親類を失った若者たちが復讐(ふくしゅう)心から武装勢力に加わっている」と地元記者はいう。失業率5割以上、平均月収1万ルーブル(約3万4000円)という社会状況や、経済格差も若者を武装勢力に向かわせる一因とみられ、かつてのチェチェンとも重なる。

 検察当局によると、治安部隊員や警官への襲撃事件は今年だけで150件に上る。特に8月末、貴重な情報発信源だった反体制インターネットサイトの運営者が殺害されて以降、報復とみられる大統領の親類への襲撃事件が相次いだ。カフカス武装勢力が“主戦場”をイングーシにシフトした可能性もうかがえる。

 ジャジコフ大統領は外国人記者団との会見で、多数の死者・行方不明者が出ているのでは−との質問には直接答えず、「問題がないとはいわない。だが、治安は維持しているし、議会には政党が4つある。ただ、共和国に一銭も支援しない人権団体は正当な批判者とはいえない」と語ったほか、間接的に欧米批判も口にした。

 当局と武装勢力の衝突が続いているのはイングーシだけではない。ロシア連邦保安局(FSB)のボルトニコフ長官は北カフカス地方一帯の武装勢力の活動状況を発表した。2度の紛争をへて治安が好転したとされるチェチェンでも、今年は警官約30人が殺害され、ダゲスタン共和国でもここ2カ月間で10人の治安部隊員らが殺されたという。

 ◆ロシアのアキレス腱

 人権団体「メモリアル」チェチェン支部のシャフマン・アクブラトフ氏は、「ロシア政府はチェチェンに関しては『領土保全』を前面に掲げて武力行使したが、グルジアに属する南オセチア自治州アブハジア自治共和国には独立を認めた。この二重基準が将来、北カフカス地方の住民の不満をより強める可能性がある」と指摘する。

 一般のロシア人とは異なる宗教や文化、言語を有するカフカスの人々には、「血には血をもって報復する」という気性が根強く残る。武力でねじ伏せようとする限り、この地域がロシアにとってのアキレス腱(けん)であり続けそうだ。

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 □反体制運動家 マゴメド・ハズビエフ氏

 ■大統領の独裁批判、事実上の内戦状態に

 イングーシの反体制運動家、マゴメド・ハズビエフ氏(28)はモスクワ滞在中に産経新聞と会見、共和国のジャジコフ大統領の独裁姿勢を批判した。主な発言は次の通り。(モスクワ 佐藤貴生)

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 ジャジコフは破壊者だ。正当な法的手続きを取らずに住民を裁いている。政権に嫌気がさして大量のイングーシ人が警察を辞めた。アウシェフ前大統領の復職を求める署名を集めたら、10万人以上が賛同した。政府は住民から敬意を払われる存在であるべきだ。

 2004年の内務省襲撃事件以来、イングーシは事実上の内戦状態に入った。男たちは夜、武器を持って出ていく。17、18歳の若者たちも加わっている。陰で彼らを支援する者も多く、女性も例外ではない。

 武装勢力はイングーシのほかダゲスタンやチェチェン、カバルジノ・バルカルなど北カフカスをまたぎ活動しており、この地方全体でロシアから独立してイスラム政府を樹立する計画がある。

 私は武器で政権と戦うことには反対だ。たびたび反政府デモを組織したため、今年1月には逮捕、拘束された。手紙や電話での脅迫が相次いだが、今年に入ると、「反政府行動をやめれば大金をやるし、共和国政府の好きなポストをやる」などと話を持ちかけられるようになった。

イングーシもまとめないといけないですね。今日は時間が無いので、また今週末にでも。