TPPについて関岡英之氏の「国家の存亡」にそって考えてみる。

衆議院選挙のこんな寸前にやっても、遅いかもしれませんけど。
まず関岡氏はTPPは、自民党時代にあった(そして民主党時代になっていつの間にか消えていた)「年次改革要望書」から続いているアメリカの日本改造の続きと捕らえています。その根拠は、

1.2010年11月9月の閣議決定「包括的経済連携に関する基本方針」でTPP参加交渉と一体的に実施する国内対策として農業、人の移動、規制・制度改革の三本柱を挙げた。p30
2.2011年2月28日〜3月4日にかけて行われた「日米経済調和対話」のあと発表された日本側関心事項に『日米双方の経済政策に関する最新状況』の中に我が国の「新成長戦略」や規制改革等の取り組みの現状p43〜p45

を挙げ、

「日米経済調和対話」、「規制・制度改革」、TPP参加交渉は、三位一体として推挙されていくわけである。p46と書いています。

そしてこの「日米経済調和対話」が「年次改革要望書」を踏襲しているとの主張です。比較してみると

「日米経済調和対話」		「年次改革要望書」
米国側関心事項			(最終版)
2011年2月			2008年10月
(1)情報通信技術			(1)通信
(2)知的財産権		 	(2)情報技術
(3)郵政		 		(3)民営化
(4)保険		 		(4)金融サービス
(5)透明性		 	(5)透明性
(6)運輸・流通・エネルギー	(6)流通
(7)農業関連課題		 	(7)そのた行政慣行
(8)競争政策		 	(8)競争政策
(9)ビジネス法制環境		(9)商法および司法制度改革
(10)医薬品・医療機器	  	(10)医薬品・医療機器

主な変更点は以下の通りである。
[1]「通信」と「情報技術」が統合された一方、こればで「情報技術」に内包されていた「知的財産権」が独立した大項目となった。
[2]「民営化」とされていた大項目が「郵政」に改められた。小項目はほぼ不変。
[3]「金融サービス」とされていた大項目が「保険」に改められ、「共済」が小項目の筆頭に位置づけれらた。
[4]「流通」に「運輸」と「エネルギー」が追加された。
[5]「その他政府慣行」に含まれていた「農業関連課題」が独立した大項目に昇格した。
[6]「商法および司法制度改革」とされていた大項目が「ビジネス法制環境」に改められた。小項目の「M&A」「」コーポレート・ガバナンス」「外国法事務弁護士」はほぼ不変。
ちなみに「競争政策」というのは独禁法公正取引委員会行政の事で本書では採り上げないのでご興味のある方は拙書『拒否できない日本』第3章を参照願いたい。pp48-50

『拒否できない日本』の「年次改革要望書」についてはこちらなど(長文ですが)

「日米経済調和対話」の10項目のうち、「知的財産権」「競争政策」「郵政」「金融」「情報通信技術」「ビジネス法制環境」の6項目に対応するワーキング・グループがTPPにも存在する。p51

下の表は実は打つのが面倒くさいので、Wikipediaからコピーしたのですが、「郵政」「情報通信技術」→(電気通信サービス)?「ビジネス法制環境」→(19. 環境)?の3つははっきり一致しているか不確実ではあります。本のほうを見てもどこの事を言っているのかはよく分からない部分もあります。

表3 TPPの24ワーキング・グループp53

1. 首席交渉官会議
2. 物品市場アクセス(農業)
3. 物品市場アクセス(繊維・衣料品)
4. 物品市場アクセス(工業)
5. 原産地規制
6. 貿易円滑化
7. SPS(衛生植物検疫)
8. TBT(貿易の技術的障害)
9. 貿易救済(セーフガード等)
10. 政府調達
11. 知的財産権
12. 競争政策
13. サービス(越境サービス)
14. サービス(商用関係者の移動)
15. サービス(金融サービス)
16. サービス(電気通信サービス)
17. 電子商取引
18. 投資
19. 環境
20. 労働
21. 制度的事項
22. 紛争解決
23. 協力
24. 横断的事項特別部会

ちなみにサービスは 17. 電子商取引も含めて5つのWGが設置されていると見るらしいです。

で、サービスについてですが、

WTOの交渉段階の時代でも、サービス分野は農業とならんで、米国が最も重要視する分野として位置づけられていた。なぜなら、米国は世界最大の農業輸出国であると同時に全世界の貿易輸出額の20%をしめるサービス輸出国だからである。

サービス分野において米国にとって競争上有利な国際経済秩序を作り出すことは、米国の国策である。TPP戦略においても当然それは反映されているはずである。 p56

まぁ最後は推測が書いてありますが、そもそも

TPP交渉(P9)のために設置された24の作業部会のうち、オリジナル4カ国(P4)の協定本文には存在せず、新たに追加された分野として「サービス(金融)」「投資」「労働」が挙げられる。
[...]
米国通商代表部の部内には、この三分野を含む全ての作業部会に対応する担当官が任命されている p74

との事でアメリカは特にサービス(金融)を推し進めているとの主張をしています。

なぜそれが問題かというと、名前くらいは聞いた事があると思うのですが、ISD条項が含まれているからという事のようです。

ISD条項は国内の会社と海外の会社を平等に扱えばなんら問題無いと思っている方も多いと思うのですが、それは「内国民待遇」というISD条項の一部のようです。しかし

ほかでもない米国自身、自国の企業が外資に買収される立場になると途端に反発するのだからあきれて物も言えない。
[...]
近年では2005年に中国海洋石油(CNOOC)が米国の大手石油会社ユノカルを買収しようとしたとき、米国の議会が猛反発したため、買収は阻止された。また2008年の中国華為技術によるネットワーク機器会社スリーコムの買収と、2010年の曹妃甸投資による通信機器会社エムコアの買収の際には対米外国投資委員会(CFIUS)が買収を阻止した。p79

また今月に入っても
カナダ政府、中国海洋石油のネクセン買収承認(2012 12/08 10:25)
中国海洋石油の加ネクセン買収、米当局の認可必要=関係筋(2012 12/11 08:18)
とカナダの売買にまで介入しています。

それに対して日本は2008年に外資ファンドが羽田空港の管理会社の株式を取得していることが発覚しても何もしなかった例を紹介しています。
当時の記事。
<空港整備法改正案>外資規制に反対の声…先行きに不透明感(2008 01/31 20:41)

塩崎恭久官房長官世耕弘成参院議員など安倍政権時代の官邸メンバーから「外資だけが悪いことをするわけではない」「空港会社の上場を決めた国交省の判断が問題」など強い反対論が出て改めて議論することになった。

空港出資規制 成田、20%に制限 「段階的民営化」も盛る 研究会最終報告(2008 12/12 08:03)

すでに上場しており、外資投資ファンドの株式取得で外資規制の契機となった羽田空
港の施設運営会社については新たな規制導入は必要ない
とした。

と言うことで成田には制限入れたみたいですが。

で、ISD条項ですが、以下のような物とセットになっています。
(1)「特定措置」の履行要求の禁止条項
(2)「収用と補償」条項
(3)「投資家vs国家の紛争解決」条項(通称ISD条項)

上から説明していくと
(1)「特定措置」の履行要求の禁止条項

「特定措置」というのは現地政府が外資企業に賦課する義務の事で、原材料や部品に一定の比率で現地の国産品を使う事を義務付ける「ローカル・コンテスト」が代表的である。[...]2009年にオバマ大統領が打ち出した「米国再生・再投資法」のバイ・アメリカン条項が悪名高い。
[...]「特定措置」の履行要求の禁止で困るのは日本ではなく、むしろ米国やマレーシアや、(TPPには参加していないが)中国などの国々だ。TPP交渉の場で米国がどのような姿勢を打ち出してくるかもものである。p81

(2)「収用と補償」条項

これは次の「投資家vs国家の紛争解決」とからんで非常に危険なルールである。
「収用」とは政府が民間企業を国有化したり、資産を強制的に接収したりする事を意味する。「補償」とは外資が「収用」でこうむった損失の代償を求める事で、もともとは産油国による油田国有化に対抗するために米英によって編み出されたルールであった。pp81-82

これは今では直接収用というようです。つまり間接収用もあるということです

「間接収用」というのは、資産などが接収されたり、物理的な損害を受けたりしていない場合でも、現地国政府の法律や規制のせいで外資系企業の営利活動が制約された場合、収用と同等の措置とみなして損害賠償を請求するという、途方も無い拡大解釈である。

(3)「投資家vs国家の紛争解決」条項(通称ISD条項)
訴える場所ですが現地国内の裁判所と思っている方が多いのではないでしょうかそうではありません。

世界銀行傘下のICSID(International Center for Settlement of Investment Disputes)などの国際仲裁委員会と称する場でそこでは数名の仲裁人が判定を下す。

審理は一切非公開で、判定は強制力をもつが、不服の場合でも上訴する事はできない

判定の基準は被告とされた国家の政策の必然性や妥当性ではなく「外資が損害をこうむったかどうかというただ一点」だ。しかもたまたま選ばれた仲裁人の主観に大きく左右され、類似した判例とは矛盾した判定が下される事もあり、結果は予見不可能だという。(渡邊頼純監修、外務省経済局EPA交渉チーム編著『解説FTAEPA交渉』日本経済評論社、2007年)pp83-84

まだまだ書きたいことはあるのですが、とりあえずここまでで公開します。