バイオ破綻 流出する知財 資金途絶えたベンチャー

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081111-00000031-fsi-bus_all

 金融市場の冷え込みにより、ベンチャーキャピタル(VC)などからの資金調達が困難になり、破綻(はたん)するベンチャー企業が相次いでいる。特に深刻なのは、長期の研究開発期間と多額の資金を必要とするバイオベンチャーだ。公的資金を投入して開発したシーズが消失したり、技術が海外流出する事例も出てきた。このままでは技術立国の存立が揺らぎかねないと政府もベンチャー再生に官民ファンド活用も検討している。しかし、資金の出し手となる民間金融機関がリスクマネーを敬遠、ファンド構想も“絵に描いたもち”になる可能性も指摘されている。

 ≪支援ノウハウなく≫

 「県に(ベンチャー投資の)ノウハウが欠けていた。うまく化けていれば、お金が入ってくるかもしれなかったが…」

 9月末、金子原二郎長崎県知事は苦渋の表情を浮かべた。事の発端は、県費1億円を投じた新薬開発実験研究の受託事業を手がける長崎県立大発バイオベンチャーバイオラボ」の破産だ。これを機に長崎県ベンチャー支援の廃止を決定した。同社は米国発金融危機のあおりで資金調達に失敗し、中国で計画していた研究施設の建設遅延により資金繰りが行き詰まり、破綻した。

 バイオラボをはじめとするバイオベンチャーの経営は瀬戸際に立たされている。

 今年6月、創薬ベンチャー「セルシグナルズ」が事業停止していたことが分かった。名古屋大教授が発見した情報伝達物質「ミッドカイン」を活用し、がんやリウマチ、多発性硬化症の治療薬開発が期待されていた。しかし、研究開発費の調達につまずき、事業停止に追い込まれた。しかも、培った技術は豪州企業に売却され、懸念されていた知財の海外流出が現実となった

 聖マリアンナ医大ベンチャーでリウマチ治療薬開発の「ロコモジェン」、早大発で人工赤血球開発の「オキシジェニクス」など、今年に入り有力バイオベンチャーが相次いで事業継続を断念している。

 経済産業省大学発ベンチャー調査でも、前年度と比較した2007年度業績見込みを業種別にみると、IT(情報技術)などに比べてバイオ系の営業赤字幅が突出しており、バイオ系の営業赤字は9100万円から1億1500万円に拡大している。

 日本には約600社以上のバイオベンチャーがあるが、株式を上場したのは、大学発ベンチャーとして初の上場を果たしたアンジェスMGなど十数社にとどまる。小泉内閣が進めた「大学発ベンチャー1000社構想」の後押しもあり、「半ば政策誘導的」(経産省幹部)にベンチャーを設立。折しもゲノム解析がブームに乗り、バイオ関連というだけで株価が急騰した。

 ≪一過性のブーム≫

 しかし、ブームは一過性に終わった。長期の赤字が続くバイオベンチャーは、短期的な利益を求める投資家の理解を得ることは困難だった。「ITベンチャーに投資する感覚で、VCを含めてバイオに詳しい“目利き”が欠けていた」(VC関係者)と反省の弁も聞かれる。

 新薬開発はシーズ発見から製品化に至るまでの期間が9〜17年と長期にわたる。研究開発費の総額も数百億円にのぼるが、製品の安全性に問題があれば開発中止になるなどリスクも高い。金融危機を機に、VC自身が岐路に立たされ、ベンチャー投資に回す資金が急速に縮小、「バイオベンチャーの半数以上は数年内に力尽きる」(VC関係者)との悲観論さえ蔓延(まんえん)している。

 ■官民ファンド 再生へ知恵絞る

 経営環境が厳しさを増す中、バイオベンチャー再生に向けた“切り札”ともいえるプロジェクトが動き出しつつある。経済産業省が来年度設立に向けて進める総額2000億円の官民ファンド「イノベーション創造機構」だ。

 ダイエーカネボウ再生に取り組んだ産業再生機構ベンチャーともいえる組織で、資金難に陥っているベンチャー企業に投資するほか、有望な特許を買い取り、事業化を目指す。バイオ関連への投資額は数百億円規模となる見通しで、公的資金を高リスクのベンチャー企業に投資することへの妥当性を説明するためにも、開発最終段階に入った有望ベンチャーに集中投資する方針だ。

 ただ、ここにきて金融危機がファンド構想の土台を揺るがせている。「現状では金融機関が拠出するマネーはないのではないか」(森下竜一アンジェスMG取締役)との懸念が現実味を帯び、公的資金の拠出を先行すべきだ」との声が一部のバイオ関係者からあがる。経産省も対策の練り直しを急ぐ。

 バイオベンチャーの困窮は資金調達環境の悪化だけではない。「素人集団には投資しにくい」(金融関係者)という声もあり、人材育成や企業連携による経営基盤の強化も重要なテーマだが、その道も険しいのが現状。首都圏のバイオベンチャーで組織する「首都圏バイオネットワーク」が今春、企業連携や合併を議論する懇談会を設置したが、話し合いがまとまらず、懇談会は中断に追い込まれた。

 バイオベンチャーの経営環境がさらに悪化すれば、ライフサイエンスを中心とする新産業育成の停滞も招きかねない。技術流出を防止するためにも経営基盤強化のための再編は避けられないが、資金調達の環境整備や経営を担う人材育成が急務だ。(川上朝栄)

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理研、20億円受け入れ 海外ベンチャーキャピタルと連携

日本には頑張って欲しいものなんですけど、先立つものがないとどうしようもないですね。
中国、中東など政府系ファンド 日米が規制で一致
http://d.hatena.ne.jp/navi-area26-10/20071016/1192543482
でも

日本はハイテク産業が新興国の政府系ファンドの標的となる「制度的脅威」にさらされている

とありましたし、こればっかりは自国でやらないと、どうしようもないんでしょうね。